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ウッドクラッシャーの農業利用

@ 木質を微生物に分解しやすい形状に

(社)農山漁村文化協会―通称農文協から出版されている最新の「肥料便覧」第5版伊達 昇.塩崎 尚郎編者では“堆肥はイナワラ、オガクズが混じっていないもの”との但し書きが入ってきています。敷料としてオガやモミガラを使った畜糞は発酵させても未熟堆肥としてわるさをするのです。例えばオガが混じった畜糞堆肥を土に入れると、最初の1〜2年はあまり分かりませんが、7〜8年経つと未分解木質が堆積し土壌が酸欠になり、作物は窒素飢餓状態になり育ちません。昔から篤農家は、こうした現象をオガ公害と呼んでいます。したがって木質を堆肥材料化するためには、少なくともオガより表面積を広げ、薄く綿状にして微生物が食いつき易いようにする事が必要です。(これまでカンナクズ状に薄くしたら分解できた実績がある)

A ウッドクラッシャーの処理品は空気、酸素がはいりやすいスキマをもつ形状

もともと好気性発酵(コンポスト)は欧米で発達したもので、地上でO?を使って発酵させ、その発酵工程でメタンやアンモニアを作り出し、最終的にCO?と水にしようというものです。O2を使うためたえず切り返しを行い、O2が通りやすいスキマをもつ構造が必要です。粉化ですと細かくなりすぎて空気が通らず水分で固まってしまいます。そこで粉ではなく綿のようにフワフワにしたのです。それでも他の有機物よりは分解時間がかかりますが、好気性発酵法、既設の堆肥化装置(堆肥センター)でも数ヶ月で熟成出来るでしょう。また、

☆ 耐熱性バチルス菌を使い熱効率のよい密閉縦型コンポストを使うと綿状の木質は10日間位で堆肥化可能(本方式で、綿状よりも条件の悪いカンナ屑が、測定方法に異論はあるものの10日間でリグニンが99%分解したというデーターがあり、現在も順調に稼動しています)

☆ 高水分率の有機物も綿状木質が自給されるなら優良の水分調整剤を大量に使えるので糞尿コミコミ処理も可能(尿処理装置が不要)

☆ 建築廃材も綿状に粉砕し塩素化合物分解酵素を併用すると無害堆肥化が可能。

☆ 従来、畜糞や堆肥化原料がない村々でも木質を改質し、堆肥化原料の自給が可能。

☆ 生ゴミ等有機物の一次処理品の肥効調整が可能。堆肥として品質的にもふさわしいものに改質できる。

B 堆肥を“自給出来る”省力・低コスト化に成功

木質を形状的に分解しやすいように加工しても樹種によって毒性があるものもあります。購入品堆肥ですと分解率やC/N比の差が大きく品質面で安心が出来ません。“オガが命”のキノコ業者は国産で一定樹種の製材業者のオガの確保に血眼になっている状況です。したがって一般農民が堆肥を活用する場合、自分で樹木を選択し自分で加工する「自給」が望ましいのです。その為ウッドクラッシャーは小型化し、少ない使用電力、部品交換の必要ない単純構造化、長寿命化・大量処理可能にし、トータルコストを低下し農家が購入出来る価格・仕様にしました。

C “畜舎”が堆肥生産工場にかわり―糞尿を脱臭し省力で処理が可能

難分解オガやモミを『敷料』として使う畜産農家が多かったのですが、この『敷料』を易分解木質にかえると、『糞尿』が簡単に優良堆肥となります。糞尿を畜舎外に運搬し、各種大型装置を使っての糞尿処理が不要となり、畜舎から取り出した時は堆肥化していて畜糞がお金のかかる廃棄物ではなく優良堆肥になり収入源に変わります。

問題は、敷料交換の頻度が増し堆肥管理要員が必要となる事ですが、優良堆肥は地域の宝でもあります。畜産農家にその労働力の維持・確保が出来るよう皆で考えましょう。但し、今まで農家経営を圧迫してきた、最低でも5,000万円位の高額の糞尿処理装置と、これまでの『敷料』の品質上の問題点(病気・悪臭・腐敗)や敷料購入(手に入りにくくなっている)等の費用負担が軽減され、経営環境も改善されます。ことに大量にあって困っている竹を敷料として使用すると均一で他の木質より吸収性、脱臭性、防菌・発酵促進と優れた効果を発揮します。竹という均質の堆肥が短期間に製造されますので竹利用を地域として推進すべきでしょう。

D 残飯・食品廃棄物の繊維質不足を補う粗飼料

放牧すると豚はかたい木の幹も食べていますが、ケナフや竹を解繊した物を食べさせると豚の肉質が良くなったという報道もあります。また、牛は糞が全部固まったそうです。固いモミガラも、粉砕して飼料として販売されています。

また、小麦や米に、粉にした生竹を10〜20%混ぜたものが機能性健康食品として販売されています。木質をやわらかくしてやれば草食動物ならば、植物はなんでも食べるはずです。ぜひ、竹やケナフ等や木質をやわらかくする事で、飼料としての利用をしてみたいものです。

E 堆肥を使わない土づくり―取組み易くなった『堆肥がいらない農法』

今、日本は西洋科学理論に基づく好気発酵による完熟堆肥を土に入れる方法が常識になっています。ところがO2を必要としない木質綿状改質品に“土壌嫌気性微生物”を使う方法が確立すると堆肥づくりを必要としなくなるでしょう。日本の伝統食品、醤油、味噌、酒造等に使われているのと同じ嫌気性発酵法を使うのですから意外と理解が早いかもしれません。

この堆肥を使わない自然農法は系統だった研究が少ないのですが、長い実績がある民間農法で近頃すこしずつ科学的に解明されるようになってきました。自然の営みを取りこんだもので、森林で落葉の下にある“土”がフカフカになっている状態をまね…未熟有機物を積んでおいたものを利用します。堆肥づくりのようにO2を入れるため繰り返し、切りかえしをする必要がない、いわば自然のなすままにほっておく森林方式といえば理解が早いでしょう。この自然農法の理解者が少なかったのは、やり方が色々あり“無農薬・無化学肥料”“堆肥不要”“不耕起栽培”“深耕しない”“木質も使う”“雑草も使う”といった西洋科学と相反する点が多すぎるので信頼を得にくかったのです。しかし、これまで一番扱いに困っていた木質が改質されたものを使えばこれまでよりは理解しやすいでしょう。生竹単体を表面施用するというだけで大変な効果がありますので一般農家もきっと安心して取り組んでくれるでしょう。

F 温暖化ガスを削減する『自然農法』―環境破壊する慣行農法

 慣行農法では窒素肥料を施用し無機態窒素(アンモニア硝酸態窒素)として吸収させています。しかし自然農法は有機物を低温でO2をつかわず発酵させアミノ酸や植物ホルモン、酵素、ビタミン等有機態の形で植物に吸収させるのです。例えば、窒素を与えると植物が生長するのは、窒素が成長を促進するホルモンに刺激を与えているのです。成長する働きは、成長ホルモンにありますので、窒素を与えるよりは植物ホルモンの形で吸収させたほうが早いのです。(参考資料『植物ホルモンを生かす〜生長調節材の使い方』太田保夫 東京農業大学教授)また、植物ホルモンは堆肥製造過程で生成されますが、完熟するとなくなってしまいますので、なくなる前に植物に与える為、堆肥ではなく土ごと発酵させようという農法です。

また、好気性菌使用の堆肥づくりはO?を使って高温加熱するため、大型装置と切り返しといういう大変な労力を必要とし、最後にCO?を排出し肥料という石油を多用するまさに環境破壊農法といっても過言でない方法です。嫌気性菌を使用する自然農法は、反対に有機物を積んで置くだけで炭素を栄養分としてCO?を利用吸収しO?やH?の形で排出し肥料を殆ど必要としません。また、有機物の施用も、土へすきこむ堆肥利用(慣行農法)は、メタンを排出するのに対し、自然農法は表面施用でメタンなしでエタン発酵になり空中窒素の固定能力(窒素を空中から取り入れる)がある等、温暖化ガス効果の削減ともなる方法です。色々な意味での自然農法の取組みが望まれます。

G いろいろの自然農法―“自力で育ち”土地を成長させる農法

敷き草 生肥料法  a 粉砕した“青竹や農業用残渣”(生肥料)や草は表面施用(生有機物の表面被覆)窒素肥料は空中窒素を取り込みます。

土ごと発酵     b 未熟堆肥や生ゴミ等は上面に「米ヌカ」を振って土を被せる程度、発酵促進剤として海水利用の安価なミネラル水溶液を散布この「米ヌカ」のかわりに「竹粉砕品」を使用すれば、米ヌカよりも素晴らしい生長力・生命力があるという報告があります。

嫌気性微生物農法  C 改質樹木はC/N比等、不明な所がありますので、とりあえず他の未熟有機物と一緒にすき込み嫌気性微生物資材(有機物の土中堆肥促進剤カルスNC-R等)の力を借ります。

これまで自然農法では木質すき込み可といわれても慣行農法家にはとても理解しにくいでしょうが、とりあえず木質を綿状に粉砕加工をするのだということで、いくらかは信じてもらえるのではないかと思います。そしてabcの順に段々と使って頂いてもいいのかと考えます。

これら農法については、以下の参考文献を参照して下さい。いずれも農文協刊です。

a.『無農薬、無化学肥料の実際〜自然農法の野菜作り』

(財)自然農法国際研究開発センター編

b.『発酵肥料の作り方、使い方』 薄上 秀男

c.『未熟有機物を生かす〜嫌気性微生物農法』 嫌気性微生物研究会編

以上 斉藤 浩